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2019.06.06

映画館

ハワード・ホークス特集に通って

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※ このテキストは、入江が毎週発行している映画メルマガ<僕らのモテるための映画聖典メルマガ>巻頭エッセイから、一部抜粋して掲載しています


こんにちは、入江悠です。
真夏日みたいに暑い日がつづきました。
北海道では38度超え。
まだ5月なのに!
皆様いかがお過ごしでしょうか?

新作『AI崩壊』のCGカットと音楽制作を待つしばしの間、シネマヴェーラ渋谷での「ハワード・ホークス監督特集」に通いました。

道玄坂の上の方、ユーロスペース渋谷と同じビルの上階にあるシネマヴェーラ渋谷。
ここは、ときどきアメリカ映画特集やフリッツ・ラング特集などをやってくれて、各地のミニシアターや名画座が減る昨今、とてもありがたい映画館です。
(関西では、大阪のシネ・ヌーヴォーさんが近いかもしれません)。

シネマヴェーラでは、数年おきに「ハワード・ホークス特集」をやってくれています。
これまでは期間中、断片的に観ることしかできなかったのですが、今回はできるだけ通おうと思って、なるべく多くのホークス映画を観ることにしました。

「一作を読んで気に入ったらその作家の全集を読め」と文学でもいわれるように、点で作品を追うより、線として作家を見ていくと色々な発見があります。
私は昔からいくぶんきまぐれ、いや、かなり場当たり的な性格で、面白そうな作品があったらアッチへふらふら、コッチへチョイチョイ。
今回は良さそうだと思うマーベル映画があれば、西に走り、由緒正しい戦前の邦画特集があれば、東に走る。
その一方、年間1000本以上公開されているという新作映画も、気になるものはできるだけ観たい。
自主映画のコンペティションの審査員も時間があれば引き受けて、未来に羽ばたく若い才能にも触れたい。

雑食といえば、雑食。
そのおかげでいろいろな監督や脚本家、カメラマン、俳優などに触れる機会があり、こうして「映画を映画館で観る」をモットーとする僕モテメルマガも継続してこられたのですが、そろそろ人生も折り返したことだし、線で捉えてみたいと思うようになりました。

脇道にそれますが、文学では、ドストエフスキーの小説を一気にまとめて読みたいと思い、2年ほど前に文芸誌「すばる」で拙作『ビジランテ』について寄稿を依頼されたのを機に、『カラマーゾフの兄弟』を再読し、『地下室の手記』『白痴』と読み進め、途中、小林秀雄の『ドストエフスキーの生活』に寄り道して、いまは『二重人格』を読んでいます。

さて、今回のハワード・ホークス特集。
私が通って観られたのは、14本。
以下、昔観ていた作品の再見も含めて、今回シネマヴェーラで観たホークス映画です。

・『無花果の葉』(’26)
・『虎鮫』(’31、エドワード・G・ロビンソン主演)
・『奇傑パンチョ』(’34、ジャック・コンウェイ監督)
・『大自然の凱歌』(’36、ウィリアム・ワイラー監督)
・『永遠の戦場』(’36、)
・『赤ちゃん教育』(『Bringing Up Baby』:’37、ケイリー・グラント、キャサリーン・ヘプバーン主演)
・『コンドル』(’39、)
・『ヒズ・ガール・フライデー』(『His Girl Friday』:’39、ケイリー・グラント、ロザリンド・ラッセル主演)
・『空軍』(’42)
・『脱出』(『To Have and Have Not』:’44、ハンフリー・ボガード、ローレン・バコール主演)
・『赤い河』(’46、)
・『ヒットパレード』(『A song is born』:’47、)
・『遊星よりの物体X』(『The Thing』:’51、マーガレット・シェリダン、ケネス・トビー主演)
・『紳士は金髪がお好き』(’52、マリリン・モンロー主演)

このシネマヴェーラの特集が素晴らしいのは、一挙上映によってホークス監督という人がどんな映画監督なのかがわかること。
だけでなく、ホークス監督が降板した映画、降板させられた映画も上映してくれているところ(映画監督って、プロデューサーやもろもろの関係によって降板させられることもあるんです)。
今回はそんな映画もちゃんと上映してくれています。
これによって、どこまでをホークスが撮ったか、それによって何が変わり、何が変わらなかったか、など想像を膨らませることができる。

たとえば、私が今回観た中では、
『奇傑パンチョ』(’34、ジャック・コンウェイ監督)
『大自然の凱歌』(’36、ウィリアム・ワイラー監督)
の2作。

これはホークスが途中で降板していますが、十分に娯楽溢れるホークス映画になっているのに驚かされます。
映画は撮影がすべてではなく、その前のプリプロダクション(ロケハンやキャスティング等の準備)もあり、むしろそこでほとんどの事は決まっているため、ある程度のディレクションはすでに施されているのかもしれません。
また監督降板にもかかわらず映画の完成度が非常に高く、観客が鑑賞中に断絶を感じないのは、カメラマンや主演俳優などの力もあるだろうし、ホークスの後を担った監督の力量もあるでしょう。

今回、1日3本を一気に観たり、日をおかずに通ったりしたおかげで、昔観たホークス映画の魅力を再発見したり、未見だった映画の凄さを知ることができました。
たとえば、ホークス映画にあっては、登場人物の輝く魅力だけでなく、『赤い河』の河を渡る無数の牛(映画内では9000頭と言われている)、『大自然の凱歌』の河に落下する無数の大木、といった、自然と動物、ものの関係の描写が凄まじい、ということにも気づかされます。

ホークス映画は純粋に面白い。
面白ければそれだけで映画は良い、とばかりに、ストレートに面白い。
だいたいどの映画でも笑えるし、男女を超えた友情に血がたぎる。
映画史やサイレント映画期を知らない方でも、50年、60年の時を超えて十分に面白さを感得できるところに、ホークス映画の真髄がある。
今回の特集上映では、残念ながら『ハタリ!』『リオ・ブラボー』などの上映はありませんでしたが(おそらく上映権利上の問題だと思いますが)、いつか上映してもらえたら必ず、また駆けつけたいなと思います。
ともかく、シネマヴェーラさん、今回はありがとう。

さて、来週はもう6月。
次号僕モテメルマガは月のあたまの恒例となっている特集号。
前回やった<執筆陣みんなで論じる>シリーズでお送りします。
メルマガ読者のロンペーさんからリクエストをいただいたこともあり、今回は、フレデリック・ワイズマン監督最新作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リズリス』。

現在映画を撮っている現役世代としては最高齢であり、劇映画、ドキュメンタリーという枠を超えて、世界中から尊敬を集めているフレデリック・ワイズマン監督。
そんな巨匠が撮ったニューヨーク公共図書館とはどんな存在なのか。
過去に何度か行ったニューヨークでこの図書館を見てこなかったことは痛恨の極みですが、まずは映画を楽しみたいと思います。

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